スタッフのらくがき帳

鉄雄のこと(第12回 最終話)  香田です!

その日は、突然にやって来ました。

 

瀬梨華ちゃんが幼稚園の年中さんになって、数日のこと。

 

鉄雄が死んだのは南茨木駅近くの路上、交通事故死でした。

帰宅途上、自転車で走行中に大型車の後輪に巻き込まれたのです。

即死だったそうです。

 

ボクはその日、ミナミで不動産の仲間と盛り上がっていました。

 

帰ろうか、と思った時に、ウチの実家から何度も着信が入って

いることに気がついたのです。

 

実家に電話して、オカンから鉄雄の訃報を聞きました。

 

…ショック、というよりは怒りでした。

(……ワシや、ワシのせいや。)

 

機嫌良く地元の上新庄に住んでいた鉄雄と愛ちゃんに、

南茨木の中古マンションを案内したのは、他ならぬボクだったのです。

 

「掘り出しモンやし、夜やったらお互いの家まで車で5分や!」と

ボクが薦めた物件を、鉄雄も愛ちゃんも即決してくれたのです。

 

タクシーで病院に着いて、ボクはある種の決意を固めました。

 

 

鉄雄の兄弟として、男らしく潔く、涙は見せずに見送ってやろうと。

 

 

鉄雄は、まだ処置室にいました。

 

広い処置室には嫁の愛子ちゃんが、恐らく泣き疲れて寝てしまったのでしょう、

瀬梨華ちゃんの肩を抱いてポツンと座っています。

その傍らには鉄雄のお父さんが立っていました。

 

「こーやん、鉄ちゃんな、ウチに何の断りもなしにあっさり逝きよってん。」

 

ボクの方を見た愛子ちゃんの顔が涙でグシャグシャになってるのを見て、

さっきの決意は足元から崩れ去りました。

 

 

後輪に巻き込まれて即死と聞いたから、さぞや惨いことになってると。

 

でも、キレイなモンだったんです、ホント寝てるみたいでした。

だからほっぺたに触れてみたんです。

そしたら鉄雄の体は確かにまだ温かかった!

 

「カマシやろ鉄、起きんかい鉄雄、目ぇ覚まさんかい鉄雄!」

 

鉄雄の耳元で思いつく限り、鼓膜が破れるような大声で叫びました。

 

でも鉄雄は目を覚ましませんでした。もう心臓も脳波も停止してるんです。

 

 

ボクは愛子ちゃんや瀬梨華ちゃんに会うのがつらくて、

そして何よりも鉄雄と最後のお別れをするのが嫌で、

葬儀には参列しませんでした。

 

告別式の日は茨木のサニータウン近く、

鉄雄やみんなとかつて何度も走り回った峠で、暗くなってもまだ一人でいました。

 

ボクは、自分自身の半分を失いました。

 

 

鉄雄に会いに行ったのは、葬儀から半年も過ぎた頃でした。

ボクは愛子ちゃんに非礼を詫びました。

 

「ええんよ、認めたくなかったんやろ、こーやんの気持ちはわかる。」

愛子ちゃんはボクを責めませんでした。

 

鉄雄の位牌に手を合わせようとすると、後ろでライターの音がして

線香のかわりに愛子ちゃんがタバコを立てました。

 

「鉄ちゃん、こーやん来てくれたで。久々に兄弟と飲むか?

 待ってや、いま用意するからな。」

 

この娘は、なんでこんなにカッコいいんでしょう?

どうしてこんなに過酷な現実と、これほど爽やかに向き合えるんでしょう?

 

ボクは現実逃避した自分の根性のなさを、心から恥じました。

 

愛子ちゃんが酒を用意してくれました。

I.Wハーパー12年のオンザロックス。二人で飲む時は、いっつもこれでした。

 

愛子ちゃんに鉄雄との思い出話をしながら、ゆっくりと飲りました。

鉄雄とボクたちとの関係を、些細な事でも記憶に留めておいて欲しかったからです。

 

愛ちゃん、全部知っていました。鉄雄がすべて話してくれていたんですね。

 

 

さて、ボクと鉄雄の物語は、そろそろ幕を引かなければなりません。

 

正直、全部語ろうと思えばいくらでも書けます。

ボクと鉄雄が共に歩んだ年月は、

12話で完結できるような希薄な関係では決してなかった。

 

でも、第二幕があるとボクは信じます。

 

寿命が尽きて鉄雄んトコ行ったら、また一緒にいっぱいバカやるんです。

 

 

鉄雄、

あれからワシもいろいろあってな、

話したいことや伝えたいことが山ほどあるんや!

 

鉄ちゃん、

おまえんトコの空も、やっぱり青いんか?

 

なぁ、鉄ちゃん。

ワシ、おまえに誇れるような人生を歩んどるやろか?

 

鉄ちゃんよ、

嫁はんに感謝せえよ。

愛子ちゃん、ホンマにえらかったぞ、頑張ったぞ!

必死の思いでおまえの分まで娘を育てたんや。

 

鉄雄、なぁ鉄雄よ、

瀬梨華ちゃんな、立派にええ娘に育ったぞ!

もう来年大学院卒業やぞ。

 

おまえ、「顔だけはワシに似るな!」といつも心配しとったやろ?

安心せえや、愛ちゃんそっくりの美人や。

眉毛以外、顔はちっともおまえに似てへん!

 

ワシ、実は決めてることがあるんや。

 

瀬梨華ちゃんもいつか生涯寄り添う人を決める時が来る。

そん時はワシが鉄ちゃんのかわりにヴァージンロードを瀬梨華ちゃんと歩く。

 

ええやろ?

 

 

鉄ちゃん、

まだもうちょっと時間かかるけどな、必ず行くからな。

あの世行っても、ワシら兄弟やで!

 

 

待っとってや!

 

                            鉄雄のこと()

 

 

   追記  連載中の皆様のご声援には、感謝の念を禁じえません。

       誠に有難うございました。

       この連載が亡き鉄雄への供養のひとはしになればと、

       祈念してやみません。

                       香田 愼一郎

 

次回予告……鉄雄のこと 番外編 『恋の季節』

      ボクはまだ、鉄雄に礼を言い忘れたことがひとつあります。

      1回だけ、番外編を書かせてください。

2011年06月25日 | カテゴリー:スタッフのらくがき帳

« 鉄雄のこと(第11回)  香田です!    暑い~!!(>_<;)))) (携帯写メ倉庫06) »

コメント