スタッフのらくがき帳

鉄雄のこと 番外編 『恋の季節』 後編  香田です!

それは音楽の時間のことでした。

 

ボクたちの学校では音楽の時間、『自由研究発表』といって、2週間に1回、1人でもグループでも良いのですが、希望者が時間を与えられて演奏を発表する試みがありました。

 

「えー、それでは来週発表したい人いますかー?」先生が聞いた時です。

 

「センセー!来週は香田クンが発表したい言うてますー。」急に鉄雄が言いました。

 

「おぇ、誰もそんなこと言うてへんやろ……」

「センセー!香田クンはピアノの弾き語りでチューリップの曲をやりたいそうでーす!」

 

「まぁー、香田クンがピアノの弾き語りですか、それは楽しみだわ。

 じゃあ来週は香田クン、よろしくお願いします!」

 

音楽の時間が終わり、ボクはすぐ鉄雄に抗議しました。

 

「鉄、おまえエラいことしてくれたのぅ、ピアノでチューリップなんかやったら

 ワシ、みんなから軟弱なヤツや思われてナメられるやろが!」

 

実際ボクはピアノが弾けることはひた隠しに隠していましたし、

ミノやキョウジとロックンロールバンドもやってたのですが、

絶対にキーボードは弾きませんでした。

ピアノが弾けることは、ウチの家族と鉄雄しか知らなかったのです。

 

「あほんだら、ナメられたら後で一人ずつシバいたらしまいの話やろが。

 これはチャンスや。ピアノもチューリップも似合わんおまえがやるからええんや。

 女はなぁ、そういう落差に弱いんや!」

 

「……落差?……」

 

「それに前、Tちゃんがおまえに話しとったやろ?

 チューリップは、いつもラストに『青春の影』をやるって。

 その前半のピアノだけの部分が一番好きって言うとったやろ?

 それを来週おまえがやるんや。ハマったらコロッといきよるで。」

 

鉄雄は、人に暗示をかける天才でもありましたから、ボクはこの作戦に賭けました。

 

そして発表の前日、例のメンバーが泊まり込みでボクの家に集合して作戦会議です。

みんな完全に人の色恋をおもちゃにして、面白がっています。

 

鉄雄が考えた段取りはこうです。

4時間目の音楽が終わったら、ボクと鉄雄は屋上で弁当食って待っとく。

Tちゃんの食事が終わったのを見て、ミノとキョウジが彼女を屋上に呼び出す。

Tちゃんが来たら、オッサンとサルゾーは誰も上がって来ないよう階段で見張っとく。

鉄雄は塔屋の上に隠れて不測の事態に備え、ボクはTちゃんに告白する。

 

「ええか、ちゃんと覚えろよ。

 『さっきの≪青春の影≫はキミのためだけに唄いました。ずっと大好きでした。

  ボクとお付き合いしてください』これだけ言うんや。余計なことは言うな。

 照れんと真剣に言えよ。間違っても自分のことワシとか言うな、ボクや。

 それとすぐに返事はさすな、じっくり考えてくれって言うんや。」

 

それから11時くらいまで弾き語りの練習。それが終わるとミノをTちゃん役に仕立てて、告白の予行演習を真剣にみんなの前でしました。

 

「あかん、顔が怖すぎる。やさしく笑いながら真剣な顔で告白するんや!」

 

『やさしく笑いながら真剣な顔』とは、一体どんな表情なのでしょう?

 

結局、鉄雄からOKが出たのは、夜中の2時をまわった頃でした。

 

 

そして当日。≪青春の影≫は、一週間みっちり練習したのでなかなかの出来でした。

 

  ♪ 君の心へ続く長い一本道は  いつも僕を勇気づけた

    とてもとても険しく細い道だったけど  いま君を迎えに行こう

    自分の大きな夢を追うことが  いままでの僕の仕事だったけど

    君を幸せにする  それこそが  これからの僕の  生きるしるし

                            (青春の影 より) ♪

 

告白は、昨日打合せた通りにこなし、Tちゃんは明日返事する、とのことでした。

 

翌日、いつも話しかけてくるTちゃんが、ひと言も口を聞いてくれません。

超ネガティブな思いが、ボクの回りを駆け巡ります。

 

6時間目の授業中、振り向いたTちゃんが無言で小さな紙切れを渡します。

『放課後、屋上で待ってます。』とありました。

 

(……やっぱり『ごめんなさい』かなぁ、イヤやなぁ行くの……。)

 

屋上に上がったボクを見つけると、Tちゃんはすぐに話しかけてきました。

 

「香田クン、ワタシ香田クンのこと、愼ちゃんって呼んでいい?」

「……別にええけど……、なんで?」

「だってヘンじゃない?自分のカレシのこと、香田クンって呼ぶの!」

 

それはバラ色の学園生活がスタートする、高らかなファンファーレでした。

 

それから7カ月は夢のような日々でした。

が、この時期鉄雄たちとの仲は、少しだけ疎遠になりました。

 

ボクは当時、Tちゃんの薦めもあり、髪をチックとハードスプレーでキメるのをやめ、

チューリップのような長髪にしました。黒い革靴もやめてスニーカーに。

中ランもタンスにしまって、ものすごく爽やかな高校生になりました。

 

 『アイツはすっかり女に骨抜きにされよったんや!』

そんな陰口がボクの耳に聞こえてきても、いっこうに気になりません。

 

だって、ボクのそばにはいつも、最愛のTちゃんがいるのですもの!

 

しかし、10代の恋はガラス細工のように脆い。

ほんの些細な出来事がキッカケで、ボクはTちゃんと別れました。

 

不思議なことに何のショックもなかった。

もちろん、Tちゃんのことは大好きでした。

今でも、街で彼女がつけていたのと同じ香りのコロンと出くわすと、

人違いであることは頭で理解していても、つい振り返ってしまいます。

 

(チューリップはヤメや!) その日のうちに散髪屋へ行き、髪を切りました。

散髪屋の帰り、まるで憑きものが落ちたかのように、

来ていたフツーの学生服の上着を脱いで空き地へ捨てました。

そして帰宅後タンスから、鉄雄との友情の証である中ランを取り出しました。

 

翌朝、虎の中ランを背負って登校したボクを見つけると、鉄雄が言いました。

 

「お帰り、兄弟! 長いこと、どこ行っとったんやぁ。みんな心配しとったで!」

 

それ以外の余計なことは何ひとつ言わずに………。

 

こと女性に関しては『好き嫌いのない男』、『ストライクゾーンのない男』と言われる

ボクですが、激しい恋に落ちたのは生涯3度きりです。

 

そのうち最も貴重な10代の恋をお膳立てしてくれたのが鉄雄です。

 

もう少しボクたちがじじいになったら、改めて礼を言おうと考えていました。

感謝の思いをどう伝えるかは、あの世へ行ってから考えるつもりです。

 

                    鉄雄のこと 番外編『恋の季節』()

 

追記 長期間にわたるご愛読有難うございました。

   実は番外編に関しては、『修学旅行の対決』や『文化祭はダンステリア』、

『暁の決闘 阪急茨木駅編』、『逆走!御堂筋パレード』など、

未発表原稿はまだまだあるのですが、

 ひつこくなりすぎてもどうか、と思いますのでまたの機会に。  

 それと、自分では1カ月以上前にアップしたつもりだったのですが、

 ホームページ上に掲載されていませんでした。

 誠に申し訳ありません。                    筆者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2011年09月03日 | カテゴリー:スタッフのらくがき帳

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