スタッフのらくがき帳

新連載スタート 「松広屋の住人たち」(第1回) 香田です!

………プロローグ………

 

ボクが住む北摂のとある街に、

『松広屋』という、自称鉄板焼屋がある。

 

喧嘩っ早く、口がきたなく、病的にイラチなママと、

そのママの命令にいつも笑顔で絶対服従するマスターが経営する店だ。

 

店の前を通りかかった時、

おいしそうなお好み焼きの匂いにつられて入ったのが二十数年前。

 

近所の商店主たちが昼間さぼって酒を飲みに来る店で、超常連ばかり。

初めて入店した時は、ものすごく居心地が悪かった。

 

まず常連客とおしゃべりばかりして注文を聞きにこない。

 

向うから聞きに来るまでがまんしよ、と思っていたら、

 

「にいちゃん、さっさと注文決めてや!」と怒られる始末。

 

でもあまりにも広島焼きがおいしかったので通うようになった。

 

ほぼレギュラーメンバーと言っていい常連客とは、

ホントに仲良く話をするようになるまで1年以上かかったと思う。

 

 

第一章     会員ナンバー1 薬屋のご隠居

 

松広屋へ初めて行った時のことです。

 

ノレンをくぐって店に入ると逆L字型のカウンターとテーブル席がふたつあって、

とりあえずカウンターの逆L字底辺部分が空いていたので、

そこに座ることにしました。

 

すると座るなり、すぐ近くにいたご老人が話しかけてきたんです。

 

「おにいさん、あかんよ。

 この店はね、カウンターは常連の指定席なんですよ。」

 

決して横柄な言い方ではなく、むしろこれ以上丁寧にはできないくらい

相手の心をおもんばかった態度に好感をもって、

ボクは素直にテーブル席へ移動しました。

 

このご老体、見てくれは英国紳士然とした大学教授風。

真夏でも仕立てた三つ揃いのスーツを着こなし、ステッキをついている。

そして細身でやや長身の体は、これ以上ないくらい背筋が伸びている。

 

現在では他界されてご存命ではないのですが、

それでも、このご老体との付き合いも二十年以上になる計算です。

 

松広屋に通い始めてだんだんわかってきたのですが、

この紳士、駅前の薬屋を経営されていたらしい。

でも今は息子夫婦に任せているので悠々自適。

 

だから通名は『薬屋のご隠居』。

 

ボクは自分が休みの水曜にしかこの店には行けなかった(夜は早く閉まる)のですが、

毎日昼を過ぎて1時になると登場するそうです。

 

「へえへえ、みなさん御苦労さん。」と言いながら登場し、

L字カウンターの角のところに陣取る。

 

するとご隠居が何も言わなくてもママが日本酒のぬる燗を用意する。

 

後はその日本酒をちびりちびりとやりながら、

みんなの話にニコニコしながら相槌をうつだけ。

 

そして1合半ほどの日本酒がなくなると、

「ほんならお先に、みなさんはごゆっくり。」と告げて帰る。

 

正直、ご隠居に関して言えば、

「へえへえ、みなさん御苦労さん。」と「ほんならお先に、みなさんはごゆっくり」しか

ほとんど聞いたことがないのです。

 

でも会員ナンバー1の権限は絶大で、松広屋でツケがきくのはご隠居だけでした。

と言うより勘定はいつも置いていって、ママが月に1度集金に行くのです。

それにメニューにないものを注文できるのもご隠居だけだったのです。

 

ほんとにたまにですが、ご隠居はママに甘えることがありました。

 

「……ママ、おなか減った……」

「何が食べたいんや?」

「……きつねうどん……」

「よっしゃ、わかった!」 こんな感じです。

 

ちょうど、ご隠居がきつねうどんを注文した時、

葬儀屋の梅さん(会員ナンバー3)

 

「ママ、わしもついでにきつねうどんちょうだい!」といったら、

「あるかい、そんなもん。ここはお好み焼きしかない!

 うどんが食いたかったら向いのうどん屋で食うてこい!」

 

扱いが全然違います。

前にご隠居が「……バラ寿司……」と言ったときは、絶対にママも怒ると思ったけど、

「インスタントでもええか?」と言って作ったのです。

 

さすがにこの時は梅さんが

「ママ、もしかしてご隠居とデキとんのとちゃうか、おかしいデ」と言ったので、

 

「梅さん、マスターもおるのに……」とボクが言いかけると、

 

パチプロのよッさん(会員ナンバー6)がすかさず

「アホか、マスターなんかとっくに役たたんわ。」

 

すると魚屋の武さん(会員ナンバー4)

「そうや、ご隠居みたいなタイプが案外元気やったりするんや。

 酒も適量しか飲まんと節制しとるし。なぁ、ママどないやねん?」

 

「アホか!アタシなんかもうとうに上がっとるわ!」

 

話題の中心であるご隠居は、ニコニコしながら誰の発言にも「ふんふん」と

頷くばかりなので、

元気であったのか役立たずであったのかは未だ不明のままなのです。

 

 追記 薬屋のご隠居が亡くなった時、会員ナンバー1は永久欠番となりましたが、

    ちなみにボクの親友金田鉄雄が持っていたナンバー9も永久欠番です。

    ボクの会員ナンバーは7で、キョウジが鉄雄より会員歴は古く8です。

    現在、最も下っ端な会員もキョウジになっています。

 

                         (2回に続く)

 

2011年09月08日 | カテゴリー:スタッフのらくがき帳

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