ボクは月水金の3日間は、トレーニング日に決めている。
約2時間程度のウォーキングと1時間程度の筋トレを実施する。
いくら仕事で遅くなっても、ほぼ休んだことがない。
たとえ終了が夜中になろうが、熱でも出してない限り7年間継続してきた。
通常は万博公園の外周路をウォーキングするのだが、
この前の水曜日はコースを変更してみた。
自分が通っていた高校⇒小学校⇒中学校の順番で回ろうと思ったのだ。
まず高校へ向う。
JRの駅を南へ出て斜め左折れの道を進むと、阪急の踏切へ出る。
踏切を渡って悩んだ。
………まっすぐやったっけ、右やったかな?………
たぶん右だと思いながら進んだのだが、街の風景が完全に変わっている。
次はどこかで左に曲がらないといけないのだが、
風景が変わってしまっているので、どこで曲ればいいのかわからない。
高校の横には川が流れていて、正門へ行くには小さな橋を渡る。
その橋へ辿り着くまで、かなり道に迷ってしまった。
小さな橋が見えてきた時、いろんな思い出が堰を切ったように溢れ出した。
………文化祭の時、ドラムやアンプをリヤカーで運んだなあ………
………Tちゃんに『さようなら』を言われたのもここやったなあ………
文化祭で最高にかっこいい演奏を見せようと思っていたのに、
その直前にTちゃんから三行半をつきつけられたのだ。
でも文化祭が終わってしばらくしてから、
別のクラスのIちゃんと初めて喋ったのもこの橋だった。
今まで1回も喋ったことのないIちゃんからいきなり声をかけられて、
バンドの演奏を褒められた記憶が蘇った。
橋を渡って正門の前でしばし佇む。
正門からは2年生の時の教室が良く見えた。
そこから見る風景は、あの頃とまったく同じだった。
次に裏門へと回る。
………確かここを入ってすぐに、食堂があった………
記憶通りに食堂はあった。
入口横には、当時と同じように飲料の自販機がいくつか並んでいる。
………放課後、ここでTちゃんと待ち合わせたな………
レモンを少しかじったような清涼感が、全身を包む。
その苦酸っぱさを身にまとったまま、高校を後にした。
小学校へは迷わず行けた。
まずプールが目についた。このプールには強烈な思い出がある。
6年生の時、心行くまでプールで泳ぎ倒したいと考えたボクたち悪ガキ軍団は、
ひとつの悪だくみをした。
誰もいない早朝なら、好き勝手し放題ができると考えたのだ。
夏休みの早朝5時にボクの家の前で待ち合わせた6名は、
意気揚々と学校のプールに乗り込んだ。
なんせ6人で貸切だ、何をしてもいい。
プールサイドですっ裸になったボクたちは、
フルチンのままプールに飛び込んだ。
しばらくは狂ったようにはしゃぎ倒していたのだが、
すぐにおなじみの怒声が聞こえた。
フェンスの下から、用務員のおっさんの怒りに満ちた顔がのぞいている。
びっくりしたボクたちは、反対側のフェンスを越えて隣の神社の境内に逃げる。
このおっさんをボクたちはかなり恐れていた。
悪さしているところを見つけると、グーで思い切り頭をなぐるのだ。
境内へ逃れたボクたちは服と靴を両手に抱えたまま、
フルチンで裏道をボクの家まで逃走したのだった!
懐かしくなって神社にも回ってみる。
神社裏にあった駄菓子とたこ焼きの『ふくちゃん』は
お好み焼き屋さんに商売替えしていた。
当時は店の前に子供用のパチンコ台が一台あって、
1ゲーム10円で真ん中のチューリップに入賞するとサイレンが鳴った。
店のおばちゃんがサイレンが回っているのを確認した上で、
たこ焼きを3個無料でくれたのだ。
ボクたち悪ガキは、このシステムを最大限に利用した。
N君とF君の二人が、空き地に捨ててあったテレビから、
強力磁石を調達してきたのだ。
『どうもおかしい』とおばちゃんが気づいて証拠をつかむまで、
ボクたち6人は相当量のたこ焼きをタダ食いした。
最終的には学校に通報され、
当時用務員のおっさんよりボクたちがさらに恐れていたK先生から、
全員フルスイングで往復ビンタの刑に処せられた。
今の価値観なら、間違いなく体罰である。
でも当時は口の中が切れる程度のビンタは
日常茶飯事だったし親も文句など言わなかった。
……小学校がK先生と用務員のおっさん。
中学がS先生Y先生、高校がF先生とW先生。
なんかドつかれてばっかりやったなあ……
変な思い出ばっかりが蘇ってきた。
優しかった先生より、怖かった先生ばっかり思い出す。
高一の担任だったW先生なんか、常に全力の『鉄拳制裁』だった。
停学処分を食らう時など、その『全力』が5,6発飛んできた。
でもなぜか懐かしく思い出す。
そんな事を考えながら中学校へと回った。
ここは、高校や小学校よりさらに風景が著しく変化していた。
と言うより、地形自体が当時とは違う。
学校の裏手にあった山や竹林は、マンション群に変貌していた。
あまりの変わりように驚いたボクは、
立ち止まることはせず、そのまま中学校を後にした。
ちょっと期待した自分を後悔した。
思い出がそのままの姿で留まっていることなどあり得ないのに……。
……アホくさ、筋トレしながら玲奈ちゃんのDVDでも見よっ!……
そう考えるボクであった。